カモメノート

自由帳

夢の花

美しい夢を見た。 灯りのない古びた六畳間の一室にいた。その部屋は一面だけが硝子張りになっていて、そこから庭が見えるのだ。庭には広い池があり、その傍らに枝垂れた枝に花を咲かせた古木がある。薄暗い部屋から覗く庭は春の柔らかな光に満ち満ちて、唐紅…

寂しさはその色としもなかりけり

人生ずっと何となく寂しいと思って生きている。世の中の人みんなそういうものなのかも知れないが、中学生くらいからそうだった気がする。慕っていたカナダ人の先生が国へ帰ることになり、部屋のベランダから空を見て泣いた。会えない寂しさというよりは、世…

好きな音楽:ドリーム・ジプシー

ビル・エヴァンスのアルバム「undercurrent」のなかに「dream gypsy」という曲がある。 Dream Gypsyビル・エヴァンス & ジム・ホールジャズ¥255provided courtesy of iTunes ポロンポロンと溢れるような音から始まって、底の方で、低いギターがかきならされ…

駿河なる宇津の山辺のうつつにも

塾でアルバイトをしていたときの夢をみた。正確に言うと、かつてアルバイトをしていた塾で、いまアルバイトをしている夢。 個別指導用のプレハブの小さな建物に、ブースが八つ。今日の担当講師と生徒の名前が書かれたホワイトボード。学校にあるのと同じ、メ…

一服差し上げます

茶道に「鏡柄杓」という構えがある。左手で節の下を持ち、右手を切り止めに添えて、柄杓の合と向かい合う。どんなに辛く悲しいことがあっても、合と向かい合う瞬間だけは、心が落ち着く思いがする。 学生のとき、ずっと部活動で茶道をしていた。中学生で初め…

献燈の文字黒黒と冴え渡りこの地で生きる人の名を知る

私は夏が好きだが、夏は特に郷愁に駆られる。色んなものが懐かしくなり、昔のことを思い出す。特に、こうしてどこにも行けない日が続くと、本当に昔のことばかりを思い出してしまう。 去年、私は新卒で入った会社を辞めて、七月のあいだ、有給を消化して自由…

優しさと冷たさ

久しぶりに日記を記す。 私はよく、理屈っぽいとか、合理主義的だねと言われる。他人に興味がなさそうとも言われる。 理屈っぽいと優しくないのか? 私は感情で物事を決めるのが苦手だ。 特に仕事においてはそうで、議論をしていて、なんだか嫌だなあと思っ…

地獄と呪い

小学校と中学校が大嫌いだった。 すごく荒れていたから。いじめもたくさんあった。普通のいい子が急にいじめられることは勿論、今日いじめていた子が、次の日からいじめられることもあった。 友達が少なくて(仲の良い子が転校したり、不登校になった)、み…

コンサートのはなし

しばしば、好きな歌手はいる?と聞かれることがあるが、答え方にすごく悩む。 aikoは好きだけれど、新曲が出たら絶対に聴くわけじゃない。曲も全体の5分の2〜3くらいしか聴いていないと思う。ましてや、ライブに行ったことなど一度もない。ライブの抽選が面…

テレビが飾りになっている話

友達が一人暮らしを始めた。人生ではじめての一人暮らしだそうだ。部屋を自分の選んだ家具で飾り、とても楽しそうにしていた。その子からメッセージが来て、「一人でいると、テレビつけないとすごくシーンとするね」と言っていた。それで思い出したのだが、…

幸せな絵画たち

印象派の絵が好きだ。展覧会があれば必ず観に行くし、部屋にはポストカードを飾っている。 例えば、ルノワールの絵は幸福に満ちている。私が寡聞にして知らないだけかもしれないが、不幸そうな絵は見たことがない気がする。印象派特有の明るい光、薔薇色の頬…

好きな季節は夏です

和歌で好まれるのは、春か秋だ。春秋の争いという言葉があるくらい、春と秋の人気は高い。次に来るのが冬で、夏は一番人気がない。 不勉強ながら理由は分からないが、あの夏の京都で、現代のように涼を取る手段がたくさんあるわけでもないことを考えると、歌…

絵画と写真の境目

絵が好きなので、よく展覧会に行く。ハマスホイ展に行きたかったのだが、コロナの影響で会期中に閉幕となり、行けずじまいになったことが悔やまれる。関西で開いてくれればよかったのだが、次の展示は山口県だそうで、流石に遠い。本当に最近はなかなか絵を…

ら抜き言葉に思うこと

「ら抜き言葉がだめ」というのがよくわからない。(私は文法学を学んだわけではないので、これから書くことはすべて憶測にすぎないのだけれど) 言葉は生きていて、変わりゆくものである。 元々「おぼろげなり」という言葉は、「普通だ、並大抵だ」という意…

在宅勤務のおとも

在宅勤務ももう3ヶ月目となった。 元々他人と会わなくても平気な方だと思っていたが、やっぱり平気だった。この3ヶ月間、喋る人がいなくて憂鬱と思ったことがない。通話とメッセージがあれば問題ない。あまりに平気すぎて、逆にお母さんに心配された。 いつ…

隅田川の思い出

「2015年10月1日に東京の本社で15時半から内定式を行います。15時にお集まりください。」 2015年の9月も半ばを過ぎた頃、新卒で内定を貰った会社から、そのような内容のメールを受け取った。 私はそれまで、東京に行ったことがほとんどなかった。関西に住ん…

古典がすきだった話

日記を書こうと決めた時に、頭に浮かんだ言葉が二つある。 一つ目は、徒然草の冒頭。 つれづれなるままに、ひぐらし、硯にむかひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。 二つ目は、土佐日記の冒頭だ…

日記をはじめる

小学三年生の頃、日記をつけていた。 それも、ほとんど毎日といっていいほどの頻度で書いていた。夜ごはんのメニュー、今日の天気、友達と遊んだこと、学校が嫌だったこと。あろうことか、イラストを添えてある日まである。 そんな日記は半年ほどで突然途切…